男はつらいよ お帰り寅さん 感想※ネタバレ


男はつらいよシリーズ、私は全部は見ていないのですが大好きで、レンタルや名画座で何本か見ました。それから1年ほど前から毎週テレ東でやっていたのでシリーズの8割ほどは見ました。それで今作は公開日に行きました。





"お帰り寅さん"というのはどうも映画館に寅さんが帰って来たという意だけではないようですね。帰ればいつものように"お帰り"と言ってくれる場所、という意味にもかかっていたようです。しかも寅さんだけでなく、満男や泉に留まらず、全ての登場人物に投げかけられている言葉のようです。山田洋次監督らしく様々な人物が登場しています。彼らは安心して帰れる場所があるのか?どうしたらそれが得られるのか?翻ると寅さん自身も親なし妻なし子なし学なし…の境遇を背負った人物だと思い返されます。そして令和となった今もまだ寅さんがひょっこり帰れる場所があることを映画の中に見出します。そんな事を考えていると、山田洋次監督や寅さんファミリーが贈る"お帰り"という言葉には大きな包容力を感じました。以下長くなります。





公開時リアルタイムで映画館でみるのは初めてです。映画を見る前に朝日出版の「男はつらいよ50周年 わたしの寅さん」を読みました。山田洋次監督が後藤久美子さんへ宛てた出演オファーの手紙に"満男の成長を餡にして、薄皮で包み込んだような作品を撮りたい"と書いたそうです。





寅さんという人は風来坊で、旅先で恋をして、突然実家に帰ってくるような人です。実家は腹違いの妹(さくら)がいて、叔父叔母が団子屋を営んでいます。隣の印刷工場のタコ社長が出入りして油を売っています。その工場の青年(諏訪博)が窓から見たさくらに恋をし生まれたのが満男です。満男の成長はやがてこの一家の重大な関心事となっていきます。





満男は思春期に初恋の人(及川泉)に出会います。それが「#42 僕のおじさん」「#43 寅次郎の休日」「#44 寅次郎の告白」「第45作 寅次郎の青春」の4部作です。第49作というのもありますが、まずはこの4部作ですね。美しい青春映画で大好きな作品です。彼らはいつでも一緒居られたわけではなく、いつも新幹線のホームまで来て葛藤するんですね。そして列車に乗ると徳永英明が流れるという。





今作をみて思い出しましたが、さくらと博も柴又駅のホームで大切な出来事がありましたね。親の代から何か象徴として描かれていたんですね。ともかく泉ちゃんは複雑な家庭環境があり、満男はいつも何とかしてあげたいと頑張っていましたし、寅さん達も2人を応援していました。





時代は移り今作では観光地となった柴又の旧団子屋に諏訪博さくら夫妻が住み、WiFiが使える喫茶店を営んでいます。たくさんの変化がありました。満男は小説家になり、泉は国連のUNHCR職員として働いています。それぞれに家庭があり、、、さくらはスマホを操ります。時代の波に乗ってきた男はつらいよシリーズですがこれ程の変化はきっと初めてです。どれほど変化したのか分かるのは過去のシリーズを見た人の特権でしょうか。しかし変わらないものもあるわけです。





特に旧団子屋(現喫茶店)では、もう亡くなった家族もいて人物構成も変わりましたが、いつ寅さんが帰って来てもおかしくないいつもの調子で会話をしていて微笑ましいです。あけみは久しぶりでしたが良かったですね。あけみには息子がいて変な奴ですが、変な奴ほどなぜか安心感ありますね。そんな中で満男と泉の関係は安易にこうと言えないものがありました。





満男と泉は今もお互いに思い合っていて、それぞれに家庭があり、仕事もありますが、2人の間を流れる空気は昔のままでした。満男は妻を亡くしたことを隠すことで、泉と今の関係を続けられると思ったようです。難しいので、お互いの境遇をもう少し考えてみます。





泉の両親は離婚しており、実の母は今も独身、父も独身で養護施設にいて、自分はオランダに家庭があります。しかも国連でたくさんの難民家族を援助するような仕事を頑張っています。泉は高校時代からそうでしたが、いつでも好きな所に帰る訳にはいかない、体一つでは酷な状況にあるわけです。だから満男は泉がいない間も居場所を守るため、泉の両親のサポートを約束するんですね。帰るべき場所が択一である必要はないんです。それと同時に今は満男にも守るべき家庭があります。





満男には娘(ユリ)がいて2人で住んでいます。妻を数年前に亡くしました。満男に"好きな人がいたら私に気兼ねしなくていいよ"と応援するような優しい娘さんです。しかし泉が来日していたその間、満男はユリにとって"お帰り"を言える対象ではなかったようです。それは満男が泉と会っていたからなのか、満男が泉に母の死を隠していたからなのか、定かではありませんが、私は後者だと思います。





"いやいや、娘としては父親が人妻と不倫仲にならぬよう嘘をついたことは褒めるべきだろう"という気持ちも分かります。寅さんだって女の人を想い嘘をついてきた人です。そうして満男と泉の関係は決着の場、成田空港ターミナルへとなだれこみ…(略)。これはもう分かんねぇなぁ、と。





それでもユリと泉は満男の最終決断を歓迎しました。きっとユリは外で母が生きているものとして振る舞う父親に壁を感じ、泉は遠慮や嘘をつく関係は望んでいなかったのだと思います。つまるところ満男が素直であれば2人は満男を受け入れるのでしょう。"お帰り"と言える場所はそれくらい普段着でありたいし相手にもそうあって欲しいものですよね。素直でいいんだよというのはとても包容力のある姿勢だと思います。あくまで私はそう感じたという話です。





結局ややこしくなってしまいました。ところで泉が現喫茶店に泊まる場面がありましたね。昔も何度か満男たちの家に泊まっているのでそれと重ね合わせた場面ですが、今回泉は寅さんの部屋に泊まったのでしょうか?寅さんの部屋は今どうなっているんでしょう。そんなことが気になりました。





ではでは


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